秋と逃避行

漫画を描く無職とフリーターの間くらいの人間の人生です。

初心者マークと僕の旅

僕は免許を取ったのが大学出てからだったため、最近まで初心者マークを付けていた。

 

というか1年経ってもろくに駐車もできなかったので、ずっと付けていた。

だめではないと聞いて…!だめではないと聞いて…!

 

もはや初心者マークが僕のイニシアチブを完全に握っており、

「君がいるから僕、頑張れるんだよ…!ズッ友だからね…!」

とか言いながら母方の実家まで運転したりもした。

 

初心者マークは僕の親友だった。

でも別れの日は突然やってきた。

 

近所の本屋に行こうと僕はいつも通り初心者マークとともに車を走らせた。

今思い返せば、確かに彼はその日少しおかしかった。

俯いて、物憂げな表情を見せていた。

別の言い方をするなら、なんかへにゃって曲がってて上の方がくっつかんかった。

 

家を出て最初の角を左折した直後だった。

彼は弾かれたかのようにバッと顔を上げ、

 

「ウォボボボボボバババババババwwwwww」

 

と、窓に顔を打ちつけ始めた。

そして次の瞬間、彼は体を横に滑らせ、さよならもいわずに夜の闇に消えていってしまった。

 

言い方を変えるなら、はがれて吹っ飛んだ。

最後窓に引っかかって粘ってすごい音立てるもんだからめちゃくちゃびっくりした。

 

僕はいけない!と思い、すぐに本屋で本を買ってから彼の捜索を始めた。

が、彼が落ちていった周辺をいくら探しても、彼は見つからなかった。

タイヤの部品が見つかった。なんで部品だけ落ちてるんだろうと思った。

 

彼を失った。

彼は僕の未熟さを証明するために、つがいとなって僕のそばにいたが、

1人では彼は力を発揮することはできなかった。

 

いつかこんな日が来る気がしていた。

むしろ、大分先延ばしにしていた気がする。

僕は彼を乗り越えなければならない。

 

彼がくれた平穏に別れを告げて、僕は初心者運転手からただの下手な運転手になった。

駐車に失敗して自宅に傷をつけようとも、どこからが高速でどこからが普通の道路なのかわからなくても、僕はひたすらに車を走らせた。

 

僕はまたひとつ、大人になった。

 

 

 

 

 

はずだった。

ある夜、いつかの本屋に徒歩で行った帰り、目の端にちらと黄色と緑のツートンカラーが映った。

 

それは紛れもなく僕とともに過ごした初心者マークだった。多分。

少し擦り傷がついていたが、大きな怪我はしていなかった。

 

思えば、これは試練だったのかもしれない。

君から離れられなかった僕に、神様がくれた試練。なんか君の巻き添えくらってる感がすごいけど。

 

僕はもう、彼を車に貼り付けることはない。

君がいても、君にすがり続ける僕はもういない。

僕は、もう君を傷つけたりしない。

言い方を変えるなら、そう。

 

 

お金なくてガソリンが入れられない。